有名人頼み? 市場拡大するベトナム映画の“演技の質”への指摘

この記事のポイント

  • 投書記事(VnExpress):「有名人起用が増え、演技の質が軽視されているのでは」という問題提起
  • 2025年の興収約5.6兆ドン・観客7000万人超・国産シェア62%(CJ CGV Vietnamのデータとして報道)
  • スクリーン数が2010年の約100→2023年に1,100超へ(業界記事での整理)

ベトナムのニュースメディアには日本と同様に「投書欄」があり、なかにはなかなか面白い指摘も多いので、きょうはその内容の一例を紹介します。これは映画業界の傾向を批判した内容です。

ベトナム映画産業はこの10年で大きく伸び、映画は単なる娯楽から「都市の消費を動かす装置」へ変化しています。一方で、このVnExpressの投書欄では「最近のベトナム映画は魂が欠けている。歌手やコメディアンが他ジャンルから進出しすぎている」という批判をしています。ポイントは、有名人の起用そのものではなく、演技の訓練・演出・脚本開発が追いつかないまま“集客の近道”が常態化することにあります。

投書の要旨は、下記のような内容です。

ベトナム映画界では、興行収入を最大化させるために、プロの俳優ではなく歌手やラッパー、モデル、コメディアンといった他分野の著名人を主役や助演に起用する傾向が極めて顕著になっています。筆者が先日鑑賞した、数千億ドンの興行収入を記録した大ヒット映画においても、劇場は満員で開演前から熱気に包まれていましたが、実際に上映が始まると、そこには看過できない深刻な課題が浮かび上がっていました。

最大の問題は、出演者の多くが演劇学校や映画学校で正式な訓練を受けていない「有名人」であるため、演技の質が著しく低い点にあります。セリフは感情を欠いた棒読みのように聞こえ、表情や目の動きも硬直しており、登場人物の心理を深く表現できているとは言い難い状況でした。本来、カメラの前で感情をコントロールし、人物の奥行きを表現するには専門的な教育と訓練が不可欠ですが、近年のベトナム映画はこの本質的なプロセスを軽視しているように見受けられます。

このようなキャスティングが行われる背景には、明確な商業的論理が存在します。すでにファン層を確立している有名人を起用すれば、企画発表の段階から多大な注目を集めることができ、SNSでの拡散も容易になります。その結果、興行収入は大幅に増加し、ビジネスとしては「成功」を収めることができます。しかし、その代償として作品の芸術性は損なわれ、映画がまるで二時間続く安易なコメディ番組のような、深みのない娯楽へと変質してしまっています。演技が水準に達していなければ、たとえ優れた脚本があったとしても、その真価を発揮させることは不可能です。

海外においても歌手やモデルが俳優として成功する例は多々ありますが、彼らは通常、重要な役を演じる前に真剣な訓練を積んでいます。翻ってベトナムでは「名声が先で演技は後回し」という逆転現象が起きており、制作者側も宣伝効果を優先して演技の質を二の次にしているのが現状です。このまま「有名人と大々的な宣伝」という手法に依存し続ければ、ベトナム映画は刹那的な娯楽の枠を超えられず、専門的な俳優の職能すらも軽んじられる悪循環に陥るでしょう。

なかなか手厳しいですね。

この記事では、市場データと投書の論点を整理しつつ、ベトナムのエンタメ消費をどう活用すべきかを、実務目線でまとめます。

ベトナム映画市場の拡大:2010年の約90スクリーン→2023年約1,100へ、2025年は興収約5.6兆ドン

ベトナムの映画館ビジネスは、スクリーン数の増加と都市部モール開発に支えられて拡大してきました。業界記事でも、2010年ごろはスクリーン数が約100規模だったのに対し、2023年には1,100超まで伸びたという整理が見られます。興収も同様に伸び、2025年は総興収が約5.6兆ドン(約2.13億ドル)、観客は7,000万人超という数字が報じられています(CJ CGV Vietnamのデータとして紹介)。また2025年は国産映画が市場シェア62%を占め、国産の存在感が増しています。

映画館側の視点で見ると、商業施設への集客、広告、タイアップなどと相性が良く、“都市型の消費行動”をつくるコンテンツとしての価値が上がっているのが特徴です。関連して、ベトナムの映画館チェーンや館内体験については、弊社の現地レポートも参考になります。映画館を探訪! 日本との違いは

投書が指摘する「魂が欠ける」3つの理由

1)主役・脇役が“プロ俳優”ではなく、歌手・コメディアン・SNS有名人に寄っている

投書の主張はシンプルで、近年のヒット作ほど「主役から脇役まで、歌手・ラッパー・モデル・コメディアンなどが多い」というものです。ファンがいる分、公開前から話題になりやすく、集客の初速が出る反面、作品を観たときに「いつもの有名人が台本を読んでいるように見える」という違和感につながりやすい、という指摘でした。

2)演技訓練と演出が追いつかないと、脚本の良さまで弱く見える

映画は専門職であり、感情表現や表情のコントロール、人物心理の理解など、訓練と現場経験が重要です。投書では「目や表情が硬直している」「誰かの演技を真似しているように感じる」といった具体的な違和感が挙げられていました。演技が不安定だと、脚本の強みも観客に届きにくくなり、結果的に「2時間のコメディを見た気分」になってしまう——ここが核心です。

3)“泣ける・笑える”に寄りすぎると、人物造形や作品の幅が狭くなる

投書は、大衆化そのものを否定しているわけではありません。ただ、長期的に見ると「分かりやすい泣き笑い」だけが最適解になり、心に残る作品が育ちにくいのではないか、という懸念を出しています。市場が伸びる局面ほど、制作側は回収可能性を優先しがちなので、この摩擦はどの国でも起きやすい論点です。

市場が拡大するとこのような批判もでてくるのでしょうね。ただし、裾野が広がっていることは間違いなく、今後は日本映画や韓国映画のように、国外の映画祭で評価されるベトナム映画も制作されていくのではないでしょうか。ベトナムの映画業界は今後はどの用に成長していくのか期待したいですね。

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