ベトナム市場で進む信頼型ライブ販売と日本企業への可能性

ベトナムでは今、EC市場が急成長するなかで「エンターテインメントとコマースを融合させた新しい販売モデル」が台頭しており、その代表例が「E2E(Entertainment to E-commerce)」です。

E2Eは、大手消費財グループKIDOが設立したエンタメ型ECプラットフォームで、単なるオンラインモールではなく、消費者が動画やライブ配信を“見て楽しみながら買う”という体験を提供しています。
E2Eの仕組みは、インフルエンサーやタレント、人気クリエイターが登場し、番組形式で商品を紹介・レビューし、その場で購入につなげるというもで、同社は自らMCN(マルチチャンネルネットワーク)として機能し、映像制作、配信運営、決済、物流までを一体化、企業やブランドは、商品を預けるだけでE2E側がプロモーションから販売までを完結できるというものです。
取扱分野は食品、飲料、化粧品、日用品、ファッション、母子用品、家電など幅広く、特定の産業に限定されておらず、ライブ販売やショート動画を通じて、商品の魅力だけでなく、使い方やブランドの背景までをストーリーとして伝える点が特徴的です。
こうしたエンタメ型販売は、従来のECや広告と比べて、消費者との距離を縮めやすい事が特徴です。
視聴者がコメントで質問し、その場で回答が返ることで、リアル店舗に近い購買体験をオンライン上で再現でき、E2Eは、この“参加型の購買体験”を通じて、ブランドへの理解と信頼を深める仕組みをつくっています。

法令の改正の影響は、求められる責任

しかし一方で、2025年に可決された改正広告法(Law No.75/2025/QH15)の影響は無視できないと思われます。
この新法は2026年1月1日から施行され、インフルエンサーやオンライン広告事業者に対して、より厳格な責任を課す内容が盛り込まれています。
特に「広告であることの明示義務」「虚偽・誇大広告への罰則強化」「インフルエンサーが宣伝対象を理解・使用していることの確認義務」「リンク先(販売ページ)の法令適合確認」などが義務化されます。
つまり、ライブ販売やレビュー動画のように広告とエンタメの境界が曖昧な業態では、発信者・運営者の双方に明確な法的責任が発生することになります。

この改正によって、E2Eのようなエンタメ型ECには新たな課題が生まれると考えられ、出演するクリエイターの選定・契約管理、広告表示の明示、コンテンツ内容の事前審査、証拠保管といった内部統制が不可欠となると思われます。
一方で、この動きを早期に取り入れ、法令遵守と透明性を強みとする運営体制を確立できれば、消費者とブランド双方から信頼を獲得できるチャンスでもあります。
E2Eは、単なる販売プラットフォームではなく、「コンテンツ制作+販売+法的適合性」を包括した仕組みを整えつつあり、自社スタジオで撮影から配信までを管理し、インフルエンサーとの契約を明確化し、広告表示・コンプライアンスチェックを組み込むことで、“責任あるライブ販売”のモデルを構築しています。

これは、改正広告法が求める方向性と一致しており、結果的に合法的で信頼性の高い販売チャネルとして地位を高めることになる可能性もあります。

このようなE2Eの仕組みは、日本からの輸入品や、ベトナム国内で生産される日系企業製品にとっても活用価値が高いと思われます。
ベトナムの消費者は、価格だけでなく「品質・信頼・ブランドストーリー」を重視する傾向が強まりつつあり、動画やライブ配信を通じた訴求は、これらの要素を伝える上で極めて有効です。
今後、インフルエンサー規制が強まる中で求められるのは、“信頼をベースにした販売”であり、E2Eが築く「法令遵守と透明性に基づくライブコマース」は、その方向に沿ったものであり、日本ブランドにとってもリスクを抑えながら販路を拡大できる実践的なチャネルとなる可能性が高いと考えられます。

エンタメと販売をつなぐE2Eのようなプラットフォームは、単なる流行ではなく、今後のベトナム市場でのブランド戦略における中核的な手段となる可能性も秘めています。
“信頼されるエンタメ販売”という新たな価値軸を背景に、日本製品のストーリーがベトナムの消費者へ届く未来が見え始めています。

MAI INTERNATIONALでは、ベトナム国内のコンシューマーのトレンドに合致させた市場調査や営業代行が可能です。是非お気軽にお問い合わせ頂けますと幸いです。