ベトナムのオーラルケア市場は、P/S(ユニリーバ)と、コルゲートの2大巨頭が約90%のシェアを持っており、残りの約10%をその他のブランドが争っていると言われています。

これらに関係して面白い記事が、ウェブ情報紙のCafe Landに掲載されていましたので、2大ブランドの成り立ちを含めてご説明させて頂きたいと思います。

P/Sブランドの成り立ちは、1975年にベトナム南部で有名な歯磨き粉ブランドだった、HynosとKolperlonが、やはり歯磨き粉製造企業のPhong Lan社と合弁する事により作られたブランドで、Phong Lan社は1980年にはいくつかの化粧品関連企業と合併し、ユナイテッドケミカルコスメティックエンタープライズ社となりましたが、その後、1990年に同社は解散し、各製品の製造工場はホーチミン市の工業局(現商工局)の直属企業となり、社名はP/Sケミカルカンパニーとなりました。

当時は、ベトナムの歯磨き粉というと、「P/S」か、「Dalan」しか考えられない様な状況であったようで、この2社で90%以上のシェアを獲得していたという事ですが、1997年にユニリーバがベトナムへ投資を行う際に、P/Sケミカルカンパニーと合弁会社のElida P/S社という会社を立ち上げる提案をしたのですが、その際、P/Sケミカルカンパニーから、Elida P/Sに対して歯磨き粉のP/Sという商標を譲渡するという内容で合意しました。

当初は、P/Sの歯磨き粉はアルミチューブに詰められていたのですが、ユニリーバ側は美しい印刷を施す為、プラスチックチューブへの切り替えを提案したところ、P/S側は新しい生産ラインを設備する資金が不足していた為、ユニリーバグループの生産ラインと生産プロセスを導入し、1,400万USDで製造機能を放棄する事に合意し、以降は歯磨き粉の箱のみを製造する役割になったという事です。

その後、ユニリーバはプラスチックチューブの生産をインドネシアの企業へ委託した事から、関連する箱の生産機会もP/Sケミカルカンパニー側は失う事になり、結果的に合弁が解消という事になり、P/Sはユニリーバが管理するという事になったのですが、既にベトナム市場で知名度の高いP/Sの商標をそのまま使い続ける事を選択し、現在では市場の60%以上を占めるブランドにまで成長する事ができたようです。

【ソース:P/Sウェブサイト】

一方のコルゲートですが、1995年にベトナム市場へ進出する際、やはり当時有名な歯磨き粉ブランドであった、「Dalan」との合弁でスタートしています。

Dalanは、1988年に、ソンハイマニュファクチャリング社(現在のソンハイコスメティクスの前身)と当時ベトナムの歯磨き粉製造の第一人者であったエンジニアのLuu Trung Nghia氏によって誕生したブランドです。

Cafe Landに掲載された、ソンハイマニュファクチャリング社のオーナー、Trinh Thanh Nhon氏へのインタビューによると、創業当初はハノイ市からカマウ省まで徹底的に売り歩いたにも関わらず全く売れなかったのですが、しばらくすると努力が実を結び、1993年~1994年にかけて全国の歯磨き粉シェアで70%、特に中部のダナン市においては90%以上のシェアを獲得するに至ったという事でした。

【ソース:Cafe Land】

1995年に、コルゲートがソンハイマニュファクチャリング社に合弁事業の提案をしても、Trinh Thanh Nhon氏は当初興味が無かったという事ですが、しばらくしてP/Sケミカルカンパニーがユニリーバと合弁事業を行う事になり、当時、DalanとP/Sの2ブランドでほぼ歯磨き粉市場を形成しているという状況であった為、危機感を感じた事と、もしソンハイ社との合弁事業が成立しなかったとしてもベトナム市場を別の形で攻略するというコルゲート社の圧力もあったようで、最終的に合意する事になったという事でした。

ただ、ユニリーバと異なったのが、コルゲートのブランド戦略であり、コルゲートはDalanブランドを使用せずに、グローバルブランドであるコルゲートの商標を使う事を決定しました。

Trinh Thanh Nhon氏は、コルゲート側がユニリーバがやっていた様にうまくDalanブランドを発展させることができず、トレーダー側から拒否される等の事象が発生し、コルゲート側がDalanブランドを継続しても利益にならないと判断した事が要因と語っています。

その後、1998年には損失が膨らんだ為、合弁会社は最終的に解散という事になりました。

Trinh Thanh Nhon氏は、合弁会社解消後、カナダに渡っていたという事ですが、10年後の2009年にベトナムへ戻り、International Cosmetic Chemistry Company(ICC)という会社を立ち上げ、再びDalanブランドを以前の様に大きなシェアを獲得すべく生産販売を開始しました。

【ソース:ICC社ウェブサイト】

現在では全国36の省・市に、9,900店の代理店、49社のディストリビューターの販売網を構築したものの、まだまだ失ったシェアや名声を取り戻すに至っていないのですが、「どの業界を選んだとしても、成功への希望を持てるように全力を尽くさなければならないと思います。今まで40年間も多大な努力を重ねてきて、いまだにブランドを維持できています。1970年代のことを思い出すことがありますが、戦争が終わり、灰からの再建を目指しココナッツオイルの缶だけを持って戻ってきました。既に私は60歳になりますが、Dalanのシェアを取り戻すために頑張っています。」と語っていました。

以前、オーラルケア商品のお手伝いをさせて頂いた事が有ったのですが、前述したような2社の巨大企業が90%を占める様な状況であり、とても勝てないと最初から思い込んでしまっていた事を思い知らされました。

中学時代に柔道をやっていたのですが、最後の大会の大事な場面で相手にビビッてしまい体が動かなくなり、自分の柔道をする事もできず負けてしまったのですが、44歳になる今でも良くその事を思い出します。

あの時から、もう後悔しない様にどんな事でも萎縮しないで取り組もうと考えて行動していたつもりですが、知らない間にまた萎縮してしまっていた事を、世界的な大企業2社と勇敢に戦っている60歳のTrinh Thanh Nhon氏によって気付く事ができ、本当に心が震える思いがしました。

これからは、歯磨き粉を買うとき、Dalanブランドを選び少しでも応援できる様にしたいと考えています。

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