賃上げ・採用3,000人が示す製造業の労務競争

この記事のポイント

  • ポウユエンのテト賞与は最大2.2カ月分(勤続12年以上)
  • 1/1から基本給+35万〜130万ドン、追加採用3,000人
  • ホーチミン市の平均賞与は12.02百万ドンで前年比-5.4%

この記事の結論:テト賞与は「一時金」ではなく採用競争の武器になっている

ホーチミン市の大規模靴工場ポウユエン(Pouyuen)が、テト賞与の算定ルールと総額(7800億ドン)を公表しました。最大2.2カ月分という水準そのもの以上に重要なのは、①勤続に連動した見える化、②1/1の賃上げ(基本給+35万〜130万ドン)、③追加採用3,000人が同時に走っている点です。

製造拠点の労務コストは、賞与(変動費)だけを見ても読めません。基本給(固定費)と福利厚生、採用難の度合いまで含めて「総報酬」として競合比較される局面に入っています。

本記事では、ポウユエン事例とTP.HCMの平均賞与データを使い、日系企業が現場で取るべきアクションを整理します。

ホーチミン市ポウユエン:テト賞与7800億ドンと算定方法(2025年12月給与ベース)

ベトナムではテト前になると、企業のテト賞与(Tết bonus)が採用・定着の重要トピックになります。ポウユエンは、勤続年数2025年12月の実受取賃金を基準に賞与を算定するとし、勤続1年で1カ月分、勤続年数に応じて増え、12年以上で最大2.2カ月分としています。

工員の平均月収は約1,250万ドンとされ、長期勤続層ほど賞与負担が厚くなる設計です。実際に、税の仮控除後に手取りが2,500万ドン超となった例も紹介されています。

また現金支給だけでなく、帰省支援として2,500人の送迎バスを手配し、運賃の70%を補助しています。テトは「帰省コスト」とセットで語られやすく、金銭以外の福利厚生が比較要素になりやすい点は押さえておきたいところです。

賞与2.2カ月+賃上げが示す「固定費化」と採用競争(製造業の労務コスト上昇)

同社の賞与設計は、勤続と月給を基準に上限2.2カ月分と明確です。ここで実務的に効いてくるのは、基本給が上がると賞与の絶対額も連動して上がることです。賞与を「一時金」として見積もっていても、月例賃金が上がる局面では、結果として賞与も膨らみやすくなります。

さらにポウユエンは、1/1から全労働者の基本給を一人あたり35万〜130万ドン引き上げています。これは固定費としての人件費を押し上げる要素で、賞与(変動)と基本給(固定)が同時に増える局面では、工場運営コストの見通しが「賞与設計だけ」では立ちにくくなります。

採用面でも、受注が年央まで安定していることを背景に約3,000人を追加採用し、技能不問で採用後に訓練する方針です。応募要件を「18歳以上・健康」中心に寄せることで母集団を広げる一方、立ち上げ・繁忙期の教育負荷が上がりやすいモデルでもあります。

参考:同業のテト賞与・賃金・採用競争(ドンナイの靴工場事例)

同じく靴工場の事例として、ドンナイ省の大規模工場でテト賞与原資が積み上がっているケースも出ています。南部の製靴・縫製は、拠点間で労働移動も起きやすく、「地域×業種」単位のベンチマークが重要です。関連事例はテト賞与700×10億ドン支出、ドンナイ靴工場4万2000人の賃金・採用を追うもあわせてご覧ください。

TP.HCMのテト賞与相場:平均12.02百万ドン、最高1.841十億ドン・最低5.46百万ドン

市の報告ベースでは、TP.HCMのテト賞与平均は12.02百万ドンで前年より約5.4%低下しています。一方で、最高額はFDI企業、最低額は国内民間企業という形で、企業属性による分布の開きが示されています。

ここでのポイントは、「平均」をそのまま自社の基準にしないことです。実務では、競合(FDI/地場)と自社ポジションを踏まえ、複数シナリオ(保守・標準・攻め)で水準を決め、変動時に説明できる根拠(勤続・職位・業績連動など)を先に用意しておくと、運用が安定します。

テト賞与・賃上げ・採用要件を踏まえた日系企業の実務アクション

1)賞与は「都度判断」より、テーブル化(見える化)で差が出る

ポウユエンは勤続に連動したテト賞与(1カ月〜2.2カ月)を明確なテーブルとして運用しています。参入企業が年末一時金を都度判断していると、相対的に見劣りしやすくなります。上限・条件・支給タイミングを先に決めて見える化し、採用段階で説明できる状態にしておくのが基本です。

2)「賞与だけ」ではなく、月例賃金を含めた総報酬で原価シミュレーション

賃上げが同時に語られる局面では、現場は賞与だけでなく月例賃金も含めて競合比較します。固定費(基本給)と変動費(賞与・残業)を分け、最低賃金改定・繁忙期の残業も織り込んだ人件費シミュレーションを作っておくと、意思決定が速くなります。

3)技能不問採用は「教育負荷」がボトルネックになる

要件を18歳以上・健康に寄せるほど採用母集団は増えますが、現場教育の負荷は確実に上がります。採用計画と同時に、教育の手順(誰が・いつまでに・どこまで)を確定させ、ライン立ち上げの波(入社集中)を平準化する設計が実務アクションです。

4)手取り(控除後)への関心が高い:コミュニケーション設計が離職リスクを下げる

テト賞与は「額面」よりも「手取り」「支給タイミング」「帰省費用」とセットで受け止められがちです。控除後の見込みと支給日、社内の問い合わせ窓口を整備し、誤解や噂による不満を抑える運用をおすすめします。

また労使コミュニケーションの土台として、労働組合(CĐCS)の動きも無視できません。現場の交渉・協議テーマには賞与や手当が含まれやすいため、背景整理は労働連盟の団員300万人増加を読み解くも参考になります。

MAIが支援できること:テト賞与・賃上げ局面の「競合ベンチマーク」と制度設計

MAI Internationalでは、製造業の採用競合・賃金レンジ・福利厚生の実態などを、エリア(例:TP.HCM/ドンナイ)×業種(靴・縫製など)で整理し、意思決定に使える形に落とし込みます。進出検討・既存拠点の人件費見直し・採用強化など、目的に応じてご相談ください。