EVN累積損失の圧縮とベトナム電力需給

この記事のポイント

  • EVN連結売上645.195兆ドン、約260億米ドル規模
  • 2022-2023損失50.029兆ドン、累積は44.792兆ドンへ
  • 総設備87,600MWでも北部31,000MW対需要28,000MWの逼迫

EVNが29/12会議で示した財務改善:売上645.195兆ドンと損失圧縮

きょうはベトナムの電力事情を紹介します。

ベトナムの電力事情の最大の課題は、急速な経済成長と工業化による電力需要の増加に対し、発電・送電インフラの整備が追いついていない点にあります。特に北部地域では、水力発電への依存度が高い一方で渇水や異常気象の影響を受けやすく、たとえば2023年にはハノイ近郊を中心に電力需給が逼迫し、工業団地や住宅地で計画停電が実施されました。再生可能エネルギーの導入は進展しているものの、送電網の制約、蓄電設備の不足、電力料金の統制による投資インセンティブの弱さといった構造的課題が残っており、電力の安定供給は依然として中長期的な経済運営上の重要課題となっています。

2025年12月29日の総括会議で、EVN(ベトナム電力グループ)のグエン・アイン・トゥアン総裁は、今年は同社の財務指標が改善したと報告しました。連結売上高は645.195兆ドン(約260億米ドル)に達し、前年まで続いていた赤字・累積損失の圧縮に寄与したとしています。

また、親会社(EVN本体)の利益は財務省から与えられた目標を上回り、2022〜2023年期に発生した累積損失の圧縮が進んだと説明されています。EVNは同期間に約50.029兆ドンの損失を計上しており、前年末時点ではコスト削減により累積損失を44.792兆ドンまで減少させていました。こうした損失は、電力の生産・供給に伴う直接費用が、従来の小売電力価格に十分織り込まれていなかったことが主因とされています。

企業としては、「EVNの財務が改善している=電力供給が安定」という単純な理解ではなく、コスト構造見直しや価格制度の変更を通じて、今後も電力料金や契約条件が段階的に調整される可能性が高い、という前提で情報をウォッチしておく必要があります。

企業への影響:北部需給ひっ迫と系統用蓄電池整備が示す商機とリスク

EVNの報告では、輸入を除く全系統の電源設備容量は年末時点で約87,600MWとされ、前年比で約6,400MW増加したと整理されています。電源構成は、再生可能エネルギー(風力・太陽光・バイオマス)が24,453MWで27.9%、火力(石炭)が32.1%、水力が28.1%とされています。設備量としては一定の増加がある一方で、「どの地域で、どのような電源が足りていないのか」という視点がより重要になっています。

ベトナム北部は、供給予備力が低いエリアとして明確に位置付けられています。設備容量が約31,000MWであるのに対し、需要は最大28,000MW規模とされ、予備力のバッファが相対的に小さい状態です。製造業の工場やデータセンターのように「停電・電圧変動に弱い」業種では、以下のような前提を持って操業計画を組み立てる必要があります。

– 生産ピーク期における計画停電・出力制限リスクを前提とした生産計画
– 非常用自家発電設備や系統用蓄電池とのハイブリッド運用の検討
– デマンドレスポンス(需要抑制・シフト)を前提にした契約・操業ルールづくり

一方で、中部は需要が約6,300MWにとどまる一方、供給力は17,900MWとされており、需要に対して供給が厚い構造になっています。南部は風力・太陽光など再生可能エネルギーの比率が大きいものの、天候に左右される不安定な電源である点が、系統バランスに対するプレッシャーとして認識されています。

これが意味するのは、「発電設備を増やせば解決」というフェーズから、「変動電源を吸収しつつ、エリア間で融通を効かせるための運用・調整力」が競争力の主戦場になりつつある、ということです。具体的には、以下のような領域での需要が高まりやすいと考えられます。

– エリア間連系線や変電所の運用高度化
– 再エネ出力抑制・蓄電池充放電を組み合わせた需給制御
– 需要側(大口需要家)と連動したピーク抑制・インセンティブ設計

電力計画VIII(PDP8・調整版)では、2030年の全国の販売電力量を500.4〜557.8十億kWhと見込み、平均10.3〜12.5%/年の需要増を前提としています。需要サイドでは依然として高い伸びを想定する一方で、直近のEVN報告では、全系統の追加電源が約6,400MWにとどまり、同計画が掲げる「年20,000MW規模の追加電源」という水準との差が課題として浮き彫りになっています。

このギャップは、以下のような構造的なリスクと商機の裏返しと見ることができます。

■リスク面
– 需要が計画通り伸びる一方で、追加電源が計画水準に届かず、特に北部エリアでの逼迫が慢性化する可能性
– 再エネ案件の系統接続や商業運転(COD)が遅れた場合、需給ギャップが一時的に拡大するリスク

■商機面
– 追加電源そのもの(発電所)に加え、「系統安定化」「需給運用設計」を含むソリューション型の提案余地
– 需要側管理(デマンドレスポンス、ピークシフト)と組み合わせたサービスビジネス

企業としては、「発電所単体の案件」だけでなく、PDP8の前提と実際の投資・運開のギャップを見ながら、どのエリアでどのようなバランス調整手段が必要とされているのかをセットで捉えることが重要です。

企業の参入機会と対策:系統用蓄電池・O&M・ニントゥアン1原子力(5年、2026年承認見込み)

ニントゥアン1原子力については、ベトナムがプロジェクトを再始動し、約5年での完成を見込んでいること、そして同案件の投資主体がEVNであることが示されています。EVNは現在、事前実現可能性調査報告書を取りまとめ、審査・承認に付す段階にあり、投資調整方針や政府間協定、融資スキームについて2026年頃の承認を期待しているとされています。

政府間協定はベトナムとロシアの間で協議が進められており、2026年に一部項目の着工準備を始めるとの発言もあるため、制度面・資金面の進捗に応じてプロジェクト準備が加速する可能性があります。日本企業にとっては、以下のような形での中長期的関与が想定されます。

– 周辺インフラ(送変電網、系統安定化設備)の調査・設計・建設
– 原子力発電所向けの安全監視システム、計測・制御機器の提供
– O&M体制構築支援、人材育成プログラム、規制対応コンサルティング

いずれも、原子力特有の規制・国際枠組み(IAEA等)を踏まえた対応が必要であり、単発案件ではなく、中長期のパートナーシップを前提とした検討が現実的です。

いかがでしたか。参考になれば幸いです。

> ※本記事は公開時点の情報をもとにした一般的な解説です。最新の法令・通達・解釈は必ず関係当局や専門家にご確認ください。

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