労働連盟の団員300万人増加を読み解く

この記事のポイント

  • 2023年は団員858,886人増・CĐCS3,296設立
  • 2024年は団員1.23百万人超増・CĐCS10,976設立
  • 2025年は団員856,540人増・CĐCS3,647設立、累計約300万人

■ベトナム総労働連盟の報告:2023~2025年で団員約300万人増

ベトナム総労働連盟(Tổng LĐLĐ Việt Nam:VGCL)の報告によると、2023~2025年にかけて、労働組合の団員は合計で約300万人増加したとされています(非公式労働者を含む)。この3年間は、ベトナムの労働組合組織にとって「拡大フェーズ」と位置づけられる期間だといえます。

■2023~2025年の団員数・CĐCS設立の内訳

報告では、各年の団員増加数とCĐCS(Công đoàn cơ sở:基層労働組合)の設立実績が次のように示されています。

2023年:団員 858,886人増加、CĐCS 3,296組織を新設
2024年:団員 123万人超増加、CĐCS 10,976組織を新設
2025年:団員 856,540人増加、CĐCS 3,647組織を新設

副主席のNguyễn Xuân Hùng氏は、2024年が2010年以降で最も団員拡大とCĐCS設立の実績が高い年であったとコメントしており、2024年は組織化のピークイヤーとみなすことができます。

■非国有部門・インフォーマル労働への広がり

近年の特徴として、組合組織化の対象が従来中心だった国有企業だけでなく、非国有部門やインフォーマル労働(非公式労働)の領域へ広がっている点が挙げられます。
これは、工場やオフィスだけでなく、委託先・下請け・サービスセクターなど、これまで組合との接点が見えづらかった職場でも、CĐCSが設立され得る局面が増えていることを意味します。

■CĐCS(基層労働組合)とは何か:日本の企業別組合との違い

CĐCS(基層労働組合)は、会社や工場単位で設置される最も身近なレベルの労働組合で、日本でいう「企業別労働組合」に近い存在です。
一般的には、現場で働く従業員の中から選ばれた代表が、次のようなテーマについて会社側と協議を行います。

– 基本給・各種手当・賞与(特にテトボーナス)
– 残業時間やシフト、休暇の運用
– 職場の安全衛生・福利厚生
– 労働条件の変更や再編に関する説明・合意のあり方

ポイントは、「経営者・管理職」ではなく現場で働く従業員の代表が、組織として会社側と向き合うという構図が明確になることです。

■労使コミュニケーションと紛争予防への影響

CĐCSは、従業員の不満や要望を「個人の声」から「組織として集約された声」に変換する役割を持ちます。
そのため、適切に機能すれば次のような効果が期待できます。

– 小さな不満を早期に吸い上げ、労働争議やストライキに発展する前に議論の場を設ける
– 経営側が、誰と何を協議すべきかを明確にし、合意のプロセスを可視化できる
– 現場の状況を踏まえた改善提案が出てくることで、離職や採用難のリスクを抑制できる

一方で、企業側の準備が不十分なまま組合組織化が進むと、「場当たり的な対応」「説明内容のばらつき」「記録の欠如」などが積み重なり、かえって紛争リスクを高める可能性があります。
CĐCSの拡大局面では、「日常の労使コミュニケーション設計」そのものが労務リスク管理の中核になると考える必要があります。

■団員拡大を支える02-NQ/TWと党大会決議の位置づけ

ベトナムの労働組合拡大を語るうえで重要なのが、政治局の決議02-NQ/TWです。
この決議は2021年6月12日に採択され、「新しい状況におけるベトナム労働組合の組織と活動の刷新」をテーマとしています。

要点としては、

– 労働組合の組織体制を見直し、より現場に近いレベルでの代表性を強化する
– 労働者の権利・利益を守る機能を高め、社会保障・労働政策の形成に積極的に関与する
– 新たな就業形態(インフォーマル労働、プラットフォーム労働など)も含め、組織化のカバレッジを広げる

といった方向性が掲げられており、団員数の拡大やCĐCSの増加は、この政策ラインに沿った動きと捉えることができます。

■党大会決議と組合活動の高度化

02-NQ/TWに加え、第XII・XIII回党大会の決議に基づき、総労働連盟の指導部は各級労働組合に対し、団員拡大とCĐCS設立を重点課題として推進する方針を明確にしました。

そのなかで、次のような実務的な変化が生まれています。

– 労働者への宣伝・働きかけの手法が見直され、オンライン・SNSなども活用した情報発信が強化された
– 組合活動の内容が高度化し、法的知識や交渉力を備えた幹部が育成されている
– 非国有部門やインフォーマル部門でもCĐCSネットワークが広がり、組合の「現場接点」が増えている

企業側から見ると、交渉相手や相談窓口の運用能力が高まっていることになり、対応する日本企業も、説明の一貫性や記録、社内の役割分担といった「基本動作」を揃えないと、合意事項を巡る認識ギャップが生じやすい環境になっているといえます。

■CĐCS拡大局面での日系企業の労務・サプライヤー管理

個別対応から「プロセス設計」にシフトする

CĐCSの拡大により、労務課題は個々の従業員からの相談だけでなく、「組織化されたテーマ」として議題化される場面が増えていきます。
この前提で、日系企業の現地工場・現地法人が見直したいのは、次のようなポイントです。

– 相談導線:従業員・組合からの相談をどこが受けるか(現場リーダー、人事、総務など)
– 苦情受付の運用:書面/オンライン/口頭いずれにせよ、受付から回答までのフローと期限を明確化
– 応対ルール:現場管理職がどこまで回答し、それ以上は誰にエスカレーションするかの「型」を事前に決めておく

こうした枠組みがないまま個別対応を続けると、「誰にどう伝わっているのか」が曖昧になり、組合側と企業側で認識が食い違うリスクが高まります。

■協力会社・外注先も含めたサプライチェーン視点

組合ネットワークが非国有部門やインフォーマル労働へ広がるということは、自社だけでなくサプライチェーン全体で組合化の影響を受けやすくなることを意味します。

– 主要な協力工場・外注先にCĐCSがあるかどうか
– 労務問題が生じた際、どのようなプロセスで組合と協議しているか
– サプライヤー側の労務トラブルが、自社ブランドや調達にどの程度波及し得るか

といった点は、ESG(環境・社会・ガバナンス)や人権デューデリジェンスの観点からも重要です。
こうした課題に対して、現地での実態把握やヒアリングを組み合わせた労務・サプライチェーン調査を行うことで、優先的に手当てすべきリスクを可視化できます。
具体的な市場・労務環境の把握が必要な場合は、弊社のベトナム市場調査サービスもご活用ください。

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