この記事のポイント
- ハノイが高品質デジタル人材50,000人を大学へ発注育成
- ネクスト1,000は海外で育成し、卒業後は最低5年勤務が要件
- 2025-2030で大学移転を推進し、約200,000人の学生規模を目標
ハノイ市は、若年層との対話の場で、単なる「就職支援」ではなく、首都の将来像から逆算した長期人材戦略を打ち出しました。本稿では、デジタル人材5万人の「発注型」育成、精鋭プログラムNext 1.000、ホアラック大学都市構想の三つを整理し、日本企業の採用・拠点戦略にどのようなインパクトがあるのかを考えていきます。
■2025年12月17日のハノイ青年対話で示された「精鋭人材」育成の全体像
2025年12月17日朝、ハノイ市人民委員会主席ブー・ダイ・タン氏が、首都の若者との対話イベント「首都青年対話」(テーマ:「渇望の喚起―創造の先駆―責任ある行動」)を主宰しました。ここで市が掲げたのは、量と質の両面から首都の人材構造を作り変えるプランです。
会議では、科学技術局長チャン・アイン・トゥアン氏が三つのレイヤーから成る人材育成案を説明しました。第一に、大学・学院に対して市が「発注」する形で、約5万人の高品質なデジタル人材を育成するプログラム。第二に、特に優秀な人材を対象にしたNext 1.000で、世界有数の教育機関で学ばせたうえで、修了後はハノイで少なくとも5年間勤務することを条件とする仕組みです。第三に、中学生段階からの選抜と、将来的には遺伝子レベルの選抜まで視野に入れた二段階の「精鋭」教育が構想されています。
VinUni(VinUniversity)のファム・フイ・ヒエウ講師は、若手の知識人が単に政策を「学ぶ側」にとどまらず、都市プロジェクトや「共通基盤」(デジタルプラットフォーム等)の設計・構築・実装に直接参画できるよう、制度面での整備が必要だと指摘しました。これは、日本企業にとっても「学生・若手が本気で動くプロジェクトの場」にどう入り込むか、という問いに直結します。
■ハノイ5万人デジタル人材育成とNext 1.000が採用・拠点戦略を変える
ハノイ市は、まず大学等への「発注型」で約50,000人の高度デジタル人材を育成する方針を示しています。これは、個社がそれぞれ採用競争をする前に、市が戦略分野を定義し、大学と連携して必要スキルセットを備えた人材プールをつくるイメージです。IT・デジタル分野の入試難易度が上昇していることからも、首都圏でのデジタル人材争奪はすでに始まっており、これを政策側が先取りした形といえます。
Next 1.000は、その中からさらに精鋭を選抜し、市が予算をつけて世界トップレベルの大学・大学院で学ばせるプログラムとされています。対象は戦略的な技術分野を専攻する優秀な学部生・新卒のエンジニアなどで、修了後は最低5年、ハノイ市に貢献することが条件です。その後、市に投資するグローバル企業の需要にも応える人材基盤になるという構想が語られています。
企業側の見方として重要なのは、今後「優秀なデジタル人材」が、個別企業ではなく首都全体の戦略リソースとして位置づけられる可能性が高い点です。採用戦略も、単に給与や福利厚生で競うのではなく、市の育成プログラムとどう接続し、インターンや共同カリキュラム、共同プロジェクトといった形で「首都戦略の一部」として存在感を示せるかが問われていきます。
■ホアラック大学都市と多中心都市モデル:2030年までの大学移転計画と交通インフラ整備
都市計画面では、ハノイ市は今後「多中心(マルチセンター)型」の都市モデルを掲げ、いくつかの成長極を形成する方針を示しています。この中でホアラック都市区は、科学技術と教育・訓練の中心として位置づけられ、大学・短大などの教育機関を郊外に集約する「新たな大学都市」として描かれています。
市人民評議会はすでに、学生数の多い公立大学を優先対象とした郊外移転計画の策定を求める決議を承認しており、国家大学は一部機能をホアラックへ移転済みです。他の大学も、工程表に沿った移転計画・プロジェクトの準備を進めているとされています。2025〜2030年には大規模な公立大学の移転が本格化し、新たな大学都市では約20万人規模の学生が学ぶ姿を目標に掲げています。ホアラック・ハイテクパークと一体となった教育・研究・イノベーション拠点の形成も、明確に打ち出されています。
交通面では、都市鉄道5号線(Văn Cao〜ホアラック)の建設が2025年12月19日に着工予定とされ、総投資額は約7.4兆ドン。2030年までの完成・運行開始を目指すことで、ホアラックと周辺を結ぶ「背骨」となる交通軸を整える構想です。教育拠点の集約と交通インフラ整備をセットで進めることが前提とされており、「大学都市化=アクセス改善とセット」という考え方が政策側に明確にあります。
ハノイ近郊では、バクニン省のように首都圏近接エリアへの関心が高まっており、若者文化と地方都市の認知が結びつく動きも見られます。今後、ホアラック周辺でも、大学都市とハイテクパークを核にした「首都圏の新しい顔」が立ち上がっていく可能性があります。
■ハノイの人材・教育再編を商機に変える連携設計
前述の通り、ハノイ市は①大学・学院への「発注型」育成(5万人規模)、②精鋭向けのNext 1.000による海外トップ校派遣、③AIやデジタル転換、国内外専門家の関与を組み込んだ二段階の「精鋭」育成と、複数レイヤーでの人材スキームを構想しています。これは、日本企業にとって単なる採用市場の変化ではなく、「どのレイヤーとどのような関わり方を設計するか」という戦略課題です。
具体的には、以下のような連携オプションが考えられます。
大学・学院との共同カリキュラム/インターンシップ設計
市が重視する「戦略技術」分野や社会課題に沿った科目やプロジェクト型授業を共同設計し、インターンや共同研究につなげる。
Next 1.000対象人材向けの長期プロジェクト提供
海外トップ校で学ぶ人材に対し、都市デジタルインフラ、スマートシティ、産業高度化など、ハノイと日本企業の双方にとって意味のあるテーマで長期プロジェクトを設計する。
ホアラック大学都市×ハイテクパークを軸にした拠点設計
個別の大学と一対一で連携する発想から、ホアラックの大学群とハイテクパークをセットで見据えた「教育・研究・実装の結節点」としての拠点設計に切り替える。
同時に、教育現場が直面する課題として、有害情報の拡散やオンライン上の学校暴力が問題化しており、生活技能・デジタルリテラシー教育、子どものオンライン保護、事案対応フローの整備などが求められています。文化・スポーツ部局や警察も、オンライン空間の管理や違反コンテンツへの対応を強化する方針を示しているため、研修・教育コンテンツを提供する企業は以下のような観点をあらかじめパッケージに組み込む必要があります。
– 学習コンテンツの適正管理(著作権・表現の妥当性・プライバシー保護など)
– 受講者のデータ保護やオンライン安全対策
– 問題発生時の通報・対応フローの設計と、学校・当局との連携手順
結果として、「人材育成」は採用の前段階ではなく、市の資金手当・選抜・配置・コミットメントを伴う制度運用の中に組み込まれていきます。ホアラック軸での立地戦略と、オンライン空間を含めたガバナンス要件を同時に満たす連携パッケージを設計できた企業ほど、ハノイ市との継続的な協業機会を得やすくなると考えられます。
■ベトナム市場への進出・マーケティングに関するご相談
MAI International では市場調査、TT/MTチャネル開拓、EC・デジタルマーケティング、現地法人設立支援などを提供しています。ハノイの人材戦略や大学都市構想を踏まえた拠点設計・パートナー選定、教育機関との連携スキームについても、具体的な検討をご支援可能です。ベトナム展開やチャネル戦略を相談したい方は下記よりお問い合わせください。
※本記事は公開時点の情報をもとにした一般的な解説です。最新の法令・通達・解釈は必ず関係当局や専門家にご確認ください。