ベトナム市場を調査するうえで、興味深いニュースがありましたのでご紹介します。
少し前の記事になりますが、2025年8月8日付のベトナムメディア「Dân trí」に、ピックルボール関連用品の販売額が2025年上半期だけで5,106億ドンに達したというニュースが掲載されていました。
ピックルボールは、テニスやバドミントン、卓球の要素を組み合わせたラケットスポーツです。ベトナムでは2024年から2025年にかけて大きなブームとなり、都市部を中心にコートや関連商品の需要が拡大しました。
現在は2026年10月ですので、このニュースは1年以上前のものです。ただ、短期間で新しいスポーツが普及し、大きな消費市場を生み出したという点は、ベトナムの消費者動向を考えるうえで参考になる事例だと思います。
2025年、ベトナムでピックルボール用品の販売額が急拡大
2025年8月8日付のDân tríの記事によると、ECデータ分析プラットフォーム「Metric.vn」の集計で、2025年上半期のベトナムにおけるピックルボール関連用品の販売額は5,106億ドンに達しました。
これは前年同期比で1,282%増という非常に高い成長率です。さらに、2025年第1四半期だけで2,287億ドンを記録し、2024年通年の2,719億ドンに迫る規模となっていました。
調査対象となったのは、Shopee、TikTok Shop、Lazada、Tikiの主要ECプラットフォーム4社です。これらのプラットフォームでは、2025年上半期に約240万点のピックルボール関連商品が販売されたと報じられています。
- 2025年上半期のEC販売額:5,106億ドン
- 前年同期比:1,282%増
- 2025年上半期の販売数量:約240万点
- 2025年第1四半期の販売額:2,287億ドン
- 2024年通年の販売額:2,719億ドン
※いずれも2025年8月時点で報じられた過去の販売実績です。また、主要ECプラットフォームの集計値であり、実店舗を含むベトナム市場全体の売上ではありません。
出典:Dân trí「Người Việt chi hơn 510 tỷ đồng mua đồ pickleball trong nửa năm?」(2025年8月8日)
どのようなピックルボール用品が購入されていたのか?
当時の報道では、ピックルボール専用シューズやラケットが売れ筋商品として紹介されていました。新しく競技を始める人が増えたことで、競技に必要な基本的な用品の購入が進んでいたことがうかがえます。
価格帯別では、50万~75万ドンの商品群の販売額が750億ドン超と最も大きく、次いで20万~35万ドンの商品群が600億ドン超、35万~50万ドンの商品群が550億ドン超となっていました。
興味深いのは、一定の価格帯に販売が集中するだけでなく、複数の価格帯でまとまった売上が生まれていたことです。ただし、このデータだけで購入者の所得層や購買目的まで判断することはできません。
また、当時は海外ブランドだけでなく、ベトナム国内のブランドもピックルボール専用の商品を展開していたと報じられています。新しい流行に対して、現地企業が比較的短期間で商品開発や販売に動いていた点も興味深いところです。
2026年の今、あらためて注目したい3つのポイント
1. 新しい消費トレンドが短期間で大きな市場を形成したこと
今回のニュースで最も興味深いのは、市場の立ち上がりのスピードです。ピックルボールはベトナムでは2018年頃から知られていたものの、2024年から2025年にかけて急速に普及したと紹介されています。
スポーツや趣味の流行は、参加者が増えるだけでは必ずしも大きな消費市場になるとは限りません。しかし、ピックルボールの場合は、関連商品のEC販売額が短期間で大きく増加していました。
ベトナム市場を考えるうえでは、こうした流行がどのような経路で広がり、どの段階で実際の商品購入につながるのかが重要な調査テーマになります。
ただし、2025年に高い成長率を記録したことと、2026年10月現在も同じペースで成長していることは別の話です。一時的なブームなのか、長期的に定着する市場なのかは、最新の販売実績や競技人口などを確認する必要があります。
2. EC販売データから流行を捉えられること
もう一つ興味深いのが、今回のような新しい消費トレンドをEC販売データから把握できることです。
ベトナムではShopeeやTikTok Shopなどが主要なオンライン販売チャネルとなっています。こうしたプラットフォームのデータを分析することで、売れている商品、価格帯、販売数量、競合ブランドなどを把握できます。
日本企業がベトナム市場を調査する際にも、ECデータは新しい需要を発見するための情報源になります。特に、まだ市場統計が十分に整っていないカテゴリーでは、消費者が実際に何を購入しているのかを確認するうえで役立ちます。
一方、オンラインの販売データだけでは、実店舗の売上や消費者の購買動機までは分かりません。市場全体を評価するには、現地店舗の調査や消費者インタビューなどと組み合わせることが重要です。
3. 一つの流行が周辺ビジネスにも波及していたこと
ピックルボールの流行は、ラケットやシューズの販売だけでなく、コート運営などの周辺ビジネスにも影響を与えていました。
Dân tríの記事では、ベトナムの縫製企業Garmex Saigonが、協力企業とともに保有地の一部をピックルボールなどのスポーツ施設として活用する事例も紹介されています。
もともとスポーツ用品を取り扱っていなかった企業にも、新しい収益機会を生む可能性があったわけです。
市場調査では、直接的な商品需要だけでなく、その流行によって新しく必要になる施設、サービス、関連商品などにも目を向けることが大切だと感じます。
日本企業のベトナム市場調査にとっての示唆
ピックルボールの事例を振り返ってみると、ベトナム市場では、消費者の関心が短期間で購買行動に結びつくことがあると分かります。
ただし、急成長しているカテゴリーを発見したからといって、すぐに市場参入すべきということではありません。成長率が高い市場ほど、初期のブームによる需要と、長期的に継続する需要を分けて考える必要があります。
例えば、2026年10月の今、この市場への参入可能性を調査するのであれば、以下のような点を確認したいところです。
- 2025年のブーム後も、競技人口や施設利用が維持されているか
- 2026年のEC販売額や販売数量がどのように推移しているか
- 初心者向け商品だけでなく、買い替えや高価格帯の商品に需要があるか
- 現地ブランドと海外ブランドの競争状況はどうなっているか
- ECと実店舗では、消費者の購買行動にどのような違いがあるか
実際、Metric.vnでは2025年通年のピックルボールラケットやスポーツウェアなどの販売データも確認できます。ただし、それぞれ商品カテゴリーや調査条件が異なるため、2025年上半期の関連用品全体の数字と単純に比較することはできません。
過去のニュースは市場の変化を知るための手掛かりになりますが、現在の事業機会を判断する際には、あらためて最新データを使った市場調査が必要です。
まとめ:過去のブームからもベトナム市場の特徴が見えてくる
今回は、2025年8月に報じられた、ベトナムのピックルボール関連用品市場に関するニュースをご紹介しました。
2025年上半期だけでEC販売額が5,106億ドンに達し、前年同期比1,282%増を記録したという数字は、当時の急激な消費拡大を示す興味深いデータです。
2026年10月の今から振り返ると、単に「ピックルボールが流行した」という話ではなく、新しいトレンドが商品販売や施設運営など、複数のビジネスに波及した事例として見ることができます。
ベトナム市場を調査する際には、最新の数字を追うことはもちろん、こうした過去のトレンドがどのように生まれ、拡大し、定着していくのかを継続的に観察することも重要だと思います。
※本記事は2025年8月8日付のDân tríの報道を中心に、2026年10月時点の視点から市場動向を考察したものです。2025年の販売実績は過去のデータであり、現在の市場規模や成長率を示すものではありません。









