近年、ベトナムでは輸入菓子や加工食品における偽装・不正表示事件、違法輸入品の流通、農産物における残留農薬問題などが度々報道されてきました。特に子ども向けのお菓子や飲料における安全性への懸念は、社会的な不安を高めており、こうした背景から、政府は食品安全の確保を国家的優先課題のひとつに位置づけ、管理体制の強化に乗り出しています。2025年9月に発出された政府官房通知第520/TB-VPCP(副首相レ・タイン・ロンの結論を記したもの)は、その象徴的な動きです。
2025年9月23日に開かれた「中央省庁横断食品安全指導委員会」の会合に基づき、政府官房は通知520号を公布しましたが、そこでは、以下のような現状認識と対策が明記されています。
■現状認識
• 2025年初め以降、検査・監視の強化や広報活動によって食品安全管理は一定の成果を挙げている。• しかし依然として法制度整備の遅れ、違反事件の発生、地方レベルでの執行力不足が存在する。
■指示・対策
• 抜き打ち検査・違反処理の強化• 食品基準・規格の整備と公開• 食品流通データベースの構築• 事後監査の徹底• 中央と地方の責任を明確化した「一元管理体制」の検討
食品安全の「一元管理」とは、現在複数の省庁(保健省、農業農村開発省、商工省など)が分担している責任を一本化し、中央から地方まで統一的に管理することを意味します。
• 責任分散の問題:縦割り行政により、違反が起きても責任の所在が不明確。• 地方ごとのばらつき:ホーチミン市やダナン市は「食品安全管理局」を設立したが、他の省は従来制度を継続。• 人的資源不足:地方・基礎レベルでは専門人材や検査機器が不足。
SGGP(サイゴン解放新聞)は「一本化は合理的だが、移行期に混乱や法的空白が起こる」と指摘し、保健省も、既存モデルの成果を認めつつも権限や財政基盤の弱さを課題として挙げています。
■成功例• ホーチミン市・ダナン市では監視効率が向上し、広報や事故対応も迅速化。
■限界• Ban Quản lý ATTP は恒久的な行政機関ではなく、権限・人員・予算が限定的。• 中央と地方の権限配分が未整理で、制度としての実効性に課題が残る。
政府は2025~2026年に改正予定の「食品安全法」に、一元管理体制を盛り込む可能性が高いと思われますが、実現には、法制度整備のスピード、地方自治とのバランス、人材・予算確保、段階的移行の設計といった課題が残されていると考えられます。
規制強化は輸入企業にとって負担増に見えますが、実際には「信頼できるブランド」に市場がシフトする契機となる可能性があると考えます。
■日本ブランドの優位性
• 安心・安全の象徴:日本製品は「品質が高く信頼できる」と広く認識されている。• 販売チャネルの拡大:大手モダントレードにおいて、日本ブランド食品の取り扱いはすでに進んでおり、今後さらに強化が見込まれる。• 規制強化が追い風に:偽造・違法品が市場から排除されることで、日本食品は「正規かつ安全な選択肢」として選ばれやすい。
■日本食品の価値拡大の可能性
注目すべきは、日本ブランド食品の価値が、さらに広がっていく可能性です。今後は、日本からの輸入食品や、日本企業がベトナム国内で生産する食品が、子供向けお菓子、冷凍食品、レトルト食品、インスタント食品などを含め、幅広いカテゴリーで拡大していくと見込まれます。
結論:食の安全性が日本ブランドの追い風に
食品安全の一元管理体制は、ベトナム社会にとって健康と信頼を守るための大きな転換点であり、そしてこの動きは、日本ブランドにとって大きなビジネスチャンスでもあると思われます。
• 消費者は「安心・安全」を最優先にする• 日本食品はその象徴的存在として信頼を得やすい• 大手モダントレードとレストラン業態の双方で日本食全体の浸透が進むことで、ブランド価値はさらに拡大する
規制強化と消費者ニーズの変化を背景に、日本ブランド食品はベトナム市場で一層存在感を発揮していく事になると思われます。
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