ベトナムに来られた際に、コープマートに行かれた事があるという方は多いと思いますが、コープマートは、ベトナムNo.1小売の一つであり、協同組合という形態の国営系企業です。

ベトナムでは経済開放前からこの協同組合という形態の組織が認められており、個人や企業組織が集まって協同組合を設立し、生産や販売などの事業を行っていたのですが、ドイモイ政策により民間販売店が増えた為、多くの協同組合が経済的に苦しくなっていきました。1990年代初頭、一連の協同組合が破産した後、当時ホーチミン市の貿易協同組合管理委員会の責任者であったNguyen Thi Nghia(グエン・ティ・ギア)女史は、協同組合を解散せずに団結させサイゴン協同組合を設立することを決定しました。当時多くの協同組合や会員組織は大きな借金を抱えており、社会主義国の学習のモデルと見なされていた東ヨーロッパ諸国の多くの協同組合モデルも崩壊していた為、Nghia氏には戸惑いもありましたが、国際協同組合連合会がベトナムに来て、日本、西欧、米国などの国々で協同組合モデルが成功していると知った時、Nghia氏とその同僚たちはその様な先進国のモデルに沿って実施する事を決定しました。

Nghia氏によると、「ビジネスを始めるにあたり、実績を作る為、輸出入業務をまず考えましたが、心の中で私たちは常に小売チェーンを設立したいと思っていました。それはハンガリーへ行った際に、全国展開されている「スカラCo.op」というスーパーマーケットチェーンを近代的小売業のビジネスモデル見学で訪問した際に、その素晴らしさに魅了され、ぜひベトナムでこのモデルを成功させたいと考えるようになったためです。帰国後、このモデルを学習する為、いくつかの国へ行くための組織を編成しました。」と2012年4月18日のサイゴン財務投資新聞で語っておられました。

Nghia女史(サイゴン財務投資新聞より)

この様にして、設立されベトナムNo.1小売チェーンの一つとして順調に成長してきたコープマートに、「買収の危機が!!」という記事がVNExpress紙に掲載されていました。

どの様な事かご説明をさせて頂くと、2020年初頭に増資を行うべく、2019年7月6日に、サイゴンコープは「2019年~2024年のメンバー総会」を開き、資金調達計画に関する決議11を発行しました。その後、2020年1月30日に臨時総会を開き、3兆2000億VNDから6兆8000億VNDへの増資が全会一致で決議され、サイゴンコープを構成する26の協同組合の内、20組合が3兆5970億VNDの出資を行う事になりました。最も多く出資する組合は9520億VND、最も少ない組合で5000万VNDということでした。また、その決議11によると調達する資金は他の組合員から借りたり、競合企業からの資金は禁止されており、組合員側が違反をした場合、サイゴンコープ側から拠出金の返却を行うという条項がありました。

この拠出金がどうも怪しいという事になっています。

ホーチミン市の検査官が確認したところ、サイゴン協同組合の一部の協同組合は、50〜60億VNDの利益を上げましたが、資本を拠出しませんでした。また、多くの協同組合は年間で5〜24億VNDの利益(税引後)しかなかったのですが、今回は数千億VNDを拠出しているという普通では考えられない状況であったようです。

また、一部の協同組合は損失を被ったにも関わらず多くの金額を拠出しています。

◆リンタイトレーディング協同組合(4800万VNDの損失、952億VNDの拠出)

◆ティーゲートレーディング協同組合(1億6,300万VNDの損失、2,440億VNDの拠出)

◆ドータントレーディング協同組合(7億2100万VNDの損失、2,470億VND以上の拠出)

VNExpressによると、7月28日時点でのリンタイトレーディング協同組合の本部は 、ホーチミン市の東側にあるトゥードゥック区のトゥードゥック市場近くのLe Van Ninh 通りにあり、「Co.op No. 36ストア」という看板があるのですが、色あせており、店舗は約30平方メートル、従業員は1人で、玄関マット、包装材、壁紙、折りたたみ椅子、ぬいぐるみなどの家庭用品を販売している状況であったという事でしたが、この組合が、952億VND(約4億3000万円)の資金を拠出した事になっています。

リンタイトレーディング協同組合(VNExpressより)

また、ここから約9 km先には、ティーゲートレーディング協同組合の本社があり、周辺はレストラン、食料品店、化粧品店がたくさんあるにぎやかなエリアですが、同協同組合の看板は焦げ茶色のさびた屋根の上にポツンと置かれており、建屋は2つ連結しており1つはオフィス、もう一つは民家であり、1階はアヒルのサラダと粥を販売する食堂で10テーブル以上あるが、1テーブルしか客がいないという状況であったようです。

同協同組合は以前の検査官と協力して、外部メンバーから資金を調達したと述べており、場合によっては協同組合の外部の個人と協力契約を結んだという可能性が指摘されています。

これは、メンバー協同組合を通じて、個人や組織がサイゴン協同組合に投資をしているという可能性を示唆しています。